注:本ページでは,宮﨑玲子さん(Twitter:@015_3625)の修了制作 “#100 IDOLs has no name” を紹介しています.
このプロジェクトの一部である,タブレットPCを用いたイラストレーションいいねシステムの制作を担当しました.
現代の抒情画を描く
芸術における絵画(ファインアート)に対し,ポピュラー美術に属する絵図で,例えば大衆向けの新聞挿絵などのことをイラストレーションと呼ぶ.このうちの一つのジャンルとして「抒情画」がある.抒情画は,特に明治から昭和初期にかけて,その時代の大衆文化と共に人物を描いた絵図であり,美人画を多く残す竹久夢二などが代表作家として挙げられる.抒情画の作者らは,自らの感情の赴くままに自分の理想を描いたことが作品から推察されるが,これが結果的に大衆の感傷に共鳴するような絵図となっていた.
本制作では,抒情画の持つ「その時代における大衆の感傷に共鳴している」という魅力を今の時代で表現し,現代を生きる人々が抱える感傷を把握,表現する作品作りに臨んだ.
—”宮﨑玲子, ”時代風俗を描く人物イラストレーションの研究 作品「#名無しアイドル100」及び研究報告書”より抜粋
” 筆者は、現代の感傷は情報社会から来るものではないかと考えた。現代では技術の発展から大衆の大半が情報や自己の表現物を発信・受信できる道具を持っており、その結果、直接対面していなくても、ごく身近な情報を共有するという新しい人物関係も生まれた。
(中略)「ある程度の感情や感想をもたらすけれど、そこまで重要ではないもの/人」が身の回りにたくさんある。そしてこうした「代替が利く存在」を多く手にしても心が満たされないと気付くと、茫漠とした不安と孤独を強く感じてしまう。筆者はこのような感傷を表現し、作品として昇華させようと試みた。日常で出会う筆者にまったく関わりのない、実在する若者をモチーフに、A5サイズのポートレイトを制作する。原則として1枚に1人を描く。筆者にとって「代替が利く存在」である他者を丁寧に一人一人描くことで、全員を愛しくて大切な存在に昇華させるという意図がある。
(中略)鑑賞者は、装置をつかって「いいね!」という現代における代表的な評価をすることができる。「いいね!」は前時代までの評価方法に比べ格段に手軽で、タップ1つで反応を残すことができる。換言すれば、タップ1つ分の気持ちしかその絵図に残せないということでもある。こうして展示中、筆者が大切なものに昇華させたイラストレーションは鑑賞者にとっての「代替のきく存在」へと変化していく、という現象を起こす。”
—平成27年度 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士前期課程芸術専攻修了制作展 後期
関連する論文,展示等
- 宮﨑玲子, “時代風俗を描く人物イラストレーションの研究 作品「#名無しアイドル100」及び研究報告書”, 博士前期課程芸術専攻修士論文梗概集(2015), pp.88-89 , 2016
- 宮﨑玲子, “#名無しアイドル100 (#100 IDOLs has no name)”, 平成27年度 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士前期課程芸術専攻修了制作展 後期, 茨城県つくば美術館, Feb. 23-28, 2016